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KDDIがジョブ型人事制度を導入!ベースとなる考え方と真のねらいは?

カテゴリ: 一般公開

大手通信事業会社のKDDIがジョブ型人事制度の導入を発表しました。大手企業が続々とジョブ型雇用の働き方を検討する時代に突入しています。

しかし、ジョブ型雇用は言葉だけが独り歩きをしていて、中身がうまく伝わってこない特徴があります。

人事制度というものは、会社の事業内容や成長のフェーズ、今直面している課題によって最適解は1つではなく、既成概念にとらわれずに雇用環境を整えなければなりません。

今回は、KDDIの新人事制度に関する公開資料を見ながら、ジョブ型人事制度を採用する本当の狙いを見ていきます。

KDDIが新働き方宣言を策定

出典:時間や場所にとらわれず成果を出す働き方の実現へ、KDDI版ジョブ型人事制度を導入(KDDI株式会社)

KDDIのニュースリリース(2020年7月31日)では、「新働き方宣言を策定。社内DXの推進により、在宅と出社のハイブリッドに~」というタイトルで、ジョブ型人事制度の導入について発表されています。

KDDIでは新人事制度の推進において、3つの柱を主軸にしているようです。

新働き方宣言

新働き方宣言では、時間や場所にとらわれず成果を出す働き方を実現する内容が述べられています。成果を出すことは、長時間労働をすることではないという宣言でしょう。

新人事制度

新人事制度では、職務を明確化して成果で評価するKDDI版のジョブ型を目指す内容、普通のジョブ型ではなくKDDIに最適なジョブ型、が述べられています。

一般的な報酬制度と比較してみましょう。主な報酬制度に職能給や職務給という仕組みがありました。

職能給では、職務を遂行するための能力をはかります。実際に職務を遂行しているかではなく、遂行できるかどうかを基準としており、年功制と比較的に相性がよいことが知られています。年功制から移り変わる最初のステップといってもよいでしょう。

その次の職務給は、仕事に対して報酬を割り当て、そのうえで目標に対する成果を評価してボーナスに還元するというケースが多い傾向です。

一般的な報酬制度の観点からKDDIの新人事制度は、ジョブ型が議論される少し前に最新とされた人事制度に近いです。つまり、厳格なジョブ型雇用ではないことがわかります。

社内DXでは、テレワークと出社によるハイブリッドな働き方を実現するIT・オフィス改革を目指す内容が述べられています。

さまざまな働き方が混在すると、それぞれを実現するITやオフィスの環境を整えなければなりません。

多くの企業が悩みがちなのが、在宅勤務における社内サーバーへの接続をはじめとするセキュリティーやネットワークの管理の問題です。そのほか、残業時間に上限がなくなってしまう点も課題として知られています。

KDDIは通信会社として新しい価値を生み出しながら、社内のインフラも整えていきたい、

という狙いが読み取れます。

KDDIのジョブ型人事制度の考え方

出典:時間や場所にとらわれず成果を出す働き方の実現へ、KDDI版ジョブ型人事制度を導入(KDDI株式会社)

2020年8月から導入されるKDDIのジョブ型人事制度は、勤務時間ではなく成果や挑戦および能力を評価し、処遇へ反映することを目的としています。ここからはベースとなる考え方を解説していきます。

考え方1.市場価値重視、成果に基づく報酬

市場価値を重視して、成果に基づく報酬を目指すとの内容が示されています。市場価値を重視するのは、社員が転職市場でどれくらいの報酬を得る人材であるかを判断するという考え方です。

会社としては価値が高い人を安い給与で雇っていると、転職されてしまうだけでなく引き抜かれるリスクもあります。その点、人事部としては優秀な人材を失いたくないので、市場価値も判断すると示したのでしょう。

もしかしたら、自分で自分の市場価値をチェックするのが当たり前になるときもくるかもしれません。すでに年に3回くらいヘッドハンターと会って、自分の市場価値を確認している人も見受けられます。

ちなみに成果に基づく報酬とは、成果物で報酬を評価する仕組みをさしています。つまり、勤務時間や勤務年数は報酬に直結しないということです。

考え方2.職務領域を明確化し、成果、挑戦、能力を評価

自分ができることや自分がすべきことを明確にしてくださいとのメッセージが読み取れます。さらに、成果だけでなく挑戦や能力まで評価することも示しているのでしょう。

ある意味では職能分の評価を含んでおり、資格や免許なども評価に反映するとの見方もできます。つまり、極めてまっとうな評価制度です。成果と挑戦も重視していますが、ジョブ型というよりも、バランス性に優れた考え方といえるでしょう。

考え方3.Willと努力を尊重したキャリア形成

Willはアルファベットで記載されており、日本語に訳すと意思という意味です。つまり、個人の意思を重視すると宣言しています。今までの日本企業があまり重視してこなかった考え方です。

意思を尊重することは、心理学的にも理にかなっています。なぜかというと、人間は自分がやりたいことや好きなことに取り組むと活躍しやすい傾向があるからです。

スタート地点が高くなるので、努力を努力と思わずに能力を伸ばしやすくなります。

考え方4.KDDIの広範な事業領域をフル活用した多様な成長機会の提供

個人の職務領域を明確化し、意思や努力、挑戦などを尊重すると、必ずしも社員のためにはならないケースもありえます。

もちろん企業は、人材が活躍できるような配置を試みますが、小規模な会社ではなかなかできません。

しかし、KDDIクラスであればさまざまな事業を実施しているので、もし希望があれば別の事業で人材を活用できます。

これは非常に大事なことです。

会社で仕事がなくなっても、グループ会社に仕事があれば、結果的に雇用を守れます。専門能力を持った人を優秀な人材として育てながら活用できます。会社と個人の両方にメリットがある考え方です。

この短い矢印の中に文字を詰め込んでいるのは、ここまで説明したい!という思いの表れではないでしょうか。深読みすれば、契約打ち切りのためにジョブ型人事制度を採用するわけではないことを明確に伝えています。

考え方5.「企業の持続的成長」と「ともに働く人の成長」

会社が成長するには働く人の成長もかかせず、お互いに対等な関係であることを示しています。裏をかえすと、成長しない人を会社では必要としていないという見方もできます。

結論として、以上の5つの考え方をベースに社員を育てる制度がKDDIの新人事制度だといえるでしょう。

人間は研修では育ちません。社員を育成するには、人材を各得意分野に集中させ、選択した領域においてさまざまな経験をさせる必要があります。 実際に仕事現場で修羅場をくぐりぬけ、さまざまな人といろいろな場面にあってこそ、社員は育っていくのです。KDDIの新人事制度では企業全体で人事育成をサポートする姿勢が読み取れます。

KDDIにおけるジョブ型人事制度のねらい

以上、KDDIにおけるジョブ型人事制度の概要をお伝えしました。

ジョブ型といえば自分の仕事に集中する働き方という論調が見られますが、KDDIの新制度を見ると非常に細かく練られていることがおわかりいただけたのではないでしょうか。

ウィズコロナの時代にあたって、社員を守りながら会社を成長させる方法を模索した結果、今回の新人事制度が完成したのでしょう。

5つの考え方が示している方向には、「プロを創り、育てる制度」とあります。つまり、KDDIのねらいは最終的にプロフェッショナル化だといえるでしょう。

では、プロを創ることの意味は何でしょうか。そもそも、プロフェッショナルは仕事をしてお金をもらう存在です。プロを名乗る存在としては、野球選手やレスラー、ゴルファーなどさまざま浮かびます。

しかし、プロビジネスパーソンという名前は聞いたことがないでしょう。ビジネスマンも同様に仕事をしてお金をもらっているのにプロと呼ばれることはありません。

つまり、日本ではビジネスマンがプロとは呼ばれない働き方が続いてきたのです。

現在、ジョブ型かメンバーシップ型か選択について議論されていますが、そもそもどちらが正しいといったステレオタイプな話ではありません。たとえば、ジョブ型だと専門能力が高まる半面、チームのコラボレーション能力の不得手が業績に直結します。

ジョブ型でもメンバーシップ型を重視した企業が、今アメリカで急成長しています。

つまり、専門家を集めるだけでうまくいくのであれば、社員は必要ありません。KDDIのように各領域でプロを育成することを目指し、うまくコラボレーションさせることが重要です。

KDDIのジョブ型人事制度の考え方を見れば、自然とジョブ型でも解雇されない条件も見えてきます。

これからの時代に求められる人材像(プロフェッショナル)を理解するのに、KDDIの新人事制度は非常に参考になるのではないでしょうか。

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