ジョブ型における職務定義書の実態とは?日本人だけが知らない内容を公開!

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ジョブ型雇用やジョブ型人事制度などの言葉が広がる中、ジョブディスクリプションシート(職務定義書)の存在も少しずつ認知されてきました。具体的な内容について気になる方もいるのではないでしょうか。今回はジョブディスクリプションシートの内容を紹介します。

職務定義書の作成をコンサルタントに依頼するのはなぜ?

ジョブ型雇用は、日本にとって新しい雇用形態であることから、書き方や運用方法についてわからない方が多く、コンサルタントを頼る方が多くいます。

ただし、日本の人事系コンサルタントでも、アメリカのジョブスクリプションシートの実態を知っていない方は少なくありません。

日本で仕事をしているからというのもありますが、実はアメリカのジョブスクリプションシートの位置付けが少しずつ変わってきているからです。

ジョブ型やメンバーシップ型にかかわらず、仕事を遂行する以上は職務範囲を決めるのは当然だという認識のもと、日本の大手企業でも職務内容が紙媒体に記載されるケースはあります。

新しい領域の人材を採用しなければならないとき、新卒では間に合わないということがあるからです。その際、ジョブディスクリプションシートを書くのは苦労します。

というのも、ジョブディスクリプションシートは、単独で人事制度の中に組み込めないからです。ジョブディスクリプションシートを活用するときは、採用や配属、育成、評価などの制度も連動して検討しなければなりません。 その点、一般的な独立系の人事コンサルタントでは、すべてを考慮して対応しているケースはほとんどないでしょう。したがって、シートを依頼・作成して終わりにならないようにしなければなりません。

ジョブディスクリプションシートの内容

欧州重電大手のABBという企業のジョブディスクリプションシートの内容を紹介します。

実はABBの送配電システム事業は日立製作所が買収しています。日立製作所といえば、日本でジョブ型雇用への移行に率先して取り組んでいる企業であるのはご存じでしょう。

おそらく日立製作所も、買収した会社のジョブディスクリプションシートを参考にしているに違いありません。 ABBはジョブディスクリプションシートをHPで公開しており、中身は一般的なジョブディスクリプションシートの形にもとづいて書かれています。早速、内容を見ていきましょう。

内容1.基本情報 Basic Info

出典:Human Resource Business Partner(ABB)

基本的な情報が記載されています。勤務地や勤務体制、契約形態などです。パーマネントの形態がある点は特徴的だといえます。

パーマネントとは割と長いという意味を連想させますが、期間限定のイメージがあるジョブ型雇用とは関連が薄いように感じるかもしれません。

そのほか、福利厚生として退職金、生命保険、傷害保険、医療保険、社宅制度などにまで触れられています。

内容2.仕事の概要 Your responsibilities

次に仕事の概要が示されています。

このジョブディスクリプションシートで募集している仕事は、人事のビジネスパートナーです。HRBP(Human Resource Business Partner)と呼ばれている割と新しい人事の職種であり、事業部や工場における事業責任者の近くで、人事系の課題をすべて対応するポジションとして知られています。

たとえば、本社の通達によって戦略を実行したり、事業部の労務問題に対応したり、人材育成をしたりします。日本でもHRBPはとても大変なポジションであり、その一方でやりがいもあって憧れる人事の方もいます。

さて、ABBのシートではHRBPの仕事をどのように定義しているのでしょうか。さらに詳しく見ていきましょう。

出典:Human Resource Business Partner(ABB)

【仕事1.リーダー層や従業員の支援】

HRBPとして支援すべき内容が記載されています。

たとえば、製造プラントのような事業部などにおいて、リーダー層や従業員などに関する労務関係や雇用契約、コンプライアンス、採用、ポジションの設定などを要求されています。

そのほか、賃金や福利厚生の案内、成績が悪い人のフォローなども含まれているようです。かなり範囲が広いですが、総じて日本人のHRBPとも共通する内容だといえます。

【仕事2.戦略の取り組みと実行】

事業部において、人事の戦略と取り組みについての展開を実施できるようサポートすべきとの内容が記載されています。

【仕事3.開発研修や人材育成】

開発研修や人材育成を事業部のリーダーと従業員の両方に行うことが記載されています。

【仕事4.人事に責任を持つ】

人事として一般的な責任が発生する仕事はすべて担当すべきとの内容が記載されています。たとえば、人事ポリシーの解釈や作成、福利厚生、労務関係、採用などが挙げられるでしょう。

出典:Human Resource Business Partner(ABB)

【仕事5.従業員のモチベーション管理】

従業員の士気を高める機会をつくり、会社と従業員の関係を良好にする役目も期待されています。事業部単位における従業員のパフォーマンス管理や好業績者への対応、後継者に対する育成プランの作成などです。

【仕事6.安全に関する取り組み】

安全衛生に関する機関と連携しながらトレーニングや事業開発などを実施できるよう、安全に対する取り組みに関しても定められています。

ジョブディスクリプションシートが職務を絞り切れない理由

ABBのジョブディスクリプションシートは、かなり広範囲の内容まで記載されているとわかりました。 その点、一般的なジョブディスクリプションシートは専門領域を絞るイメージがあり、世間の認知と違うように見受けられます。ジョブディスクリプションシートが職務を絞り切れない理由を考えてみましょう。

理由1.関連しない職務の放棄

アメリカでは、本来ジョブディスクリプションシートは狭い範囲で記載していました。しかしその結果、自分の仕事以外は担当しないという人がたくさん増えてしまいます。

結果、チームワークが悪くなり、変革のスピードも遅くなります。当然、業績もあがりません。

したがって、あらかじめ従業員の職務範囲を絞りすぎないよう、ジョブディスクリプションシートを記載するようになったと考えられます。

理由2.給与の増加や訴訟のリスク

最初に記載していない職務を後でジョブディスクリプションシートに追加すると、結果として仕事が増えることから給与も上げなければなりません。

もともと日本とアメリカでは雇用形態と雇用環境が違い、アメリカでは関係のない仕事を依頼されると訴訟になります。したがって、ジョブディスクリプションシートにおいても規約書として残しておきたいという考えがベースにあるのでしょう。

ジョブディスクリプションシートの存在意義

チームワークや変革スピード、給与の見直しなどの課題を見越して、最終的にジョブディスクリプションシートには幅広い内容が記載されるようになりました。ABBの事例だけでなく、ほかの企業においても同様でしょう。

結果として、ジョブ型というよりもメンバーシップ型と方向性が同じになっています。ただ、メンバーシップ型には紙媒体を残す風習が薄いので、ジョブディスクリプションシートによって職務内容が明確になる点は変わりません。

しかし、ジョブディスクリプションシートで本当に専門性を高められるのかはかなり疑問だといえます。

ジョブディスクリプションシートは人事の主要機能と連動させよう

ジョブディスクリプションシートを記載すればうまくいくという論調を受けて、自分の専門力を深めようとしている方もいるかもしれません。

しかし、実際のジョブディスクリプションシートを見ると、一般的な仕事が記載されているように見えます。職務に対する報酬を明確にできる点には価値があるといえますが、全社員に広範囲の内容を含めたジョブディスクリプションシートを書くのは大変だといえるでしょう。

したがって、効率のよい作成方法をあらかじめ考えて導入することが重要です。加えて、ジョブディスクリプションシートを採用にだけ利用して、その後に利用しないというケースもありえるため、有効活用する体制まで構築しておく必要もあります。

できれば、人事の4大機能といわれる採用、配属、育成、評価などに、ジョブディスクリプションシートを連携させるのが望ましいでしょう。

作成しただけで有効活用できない会社はとても多い傾向です。これからジョブ型人事制度を検討している企業は、ジョブディスクリプションを作成する際、今回説明したポイントに留意してください。