日立製作所のジョブ型人事制度の狙いとは?

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日立製作所といえば、最新鋭の精密機器から家電製品まで色々な分野で活躍する日本の製造業を代表するグローバル企業です。その日立製作所が昨今のコロナ禍の影響でジョブ型雇用を急に推進しています。今回は日立製作所の採用するジョブ型の内容を公式サイトの情報を基に解説していきます。

日立製作所のジョブ型人事制度の実態

日立製作所は昔から人事の近代化を図ってきており、ユニークな取組をグローバルレベルでしている会社です。

人事コンサルタントでも参考になるような先進的な事例も多く、日本の製造業を代表するグローバル企業として様々な会社の人事制度にも影響を与えています。

その日立製作所がジョブ型人事制度の採用を宣言したことは人事業界でも非常にインパクトが大きなことでした。

日立製作所の公式サイトのサステナビリティのコーナーでは、中期計画書を公表しています。まずは2019年のサステナビリティレポートを見ていきましょう。

出典:日立 サステナビリティレポート 2019(株式会社 日立製作所)

資料の人財(*注:当記事では日立製作所が用いる「人財」で表記します)項目を読むとよく検討された内容ですが、実はこの2019年度に発行された2021年の人財戦略の中には「ジョブ型」という言葉は1つも入っていません。

これは何を意味するのかというと、日立の中でもジョブ型という言葉自体が非常に最近、2019年以降に出てきたということがわかります。

2020年度発行の中期計画にはジョブ型についての説明が載ってくると思われますが、現在は日立製作所の中ではジョブ型という言葉が先行してしまっている印象を受けます。 ではいつに出てきたかというと、2020年3月発行のニュースリリースにおいて「ジョブ型人財マネジメントの実現に向けた2021年度採用計画について」という形で出てきます。

参考:ニュースリリース:2020年3月30日 (株式会社 日立製作所)

日立製作所のジョブ型人事制度の狙い

一番最初に日立製作所がジョブ型と言った資料が2020年3月のニュースリリースです。今までの延長線上のものや、革新的なものもありますが、採用に関して最初に打ち出してきたことに注目して内容を見ていきましょう。

新卒(ファーストキャリア人財)採用の取り組み

出典:ニュースリリース:2020年3月30日(株式会社 日立製作所)

【1.「デジタル人財採用コース」新設】

まず、新設されるデジタル人財採用コース。「歴別一律の初任給額ではなく、個別の設定を行うことを可能とします。」とあり、この採用コースは給与をかなり高く評価すると思われます。

アメリカのシリコンバレーのIT企業などでは当たり前の話となっており、優秀な人財は初年度から1,000万円近い年俸をもらう人もいるほどです。

日立もその流れに乗っていかなければいけない、優秀な人財をなるべく早く採用したい、ということでこういった採用の取り組みをしているのです。

【2.デジタル人財の海外直接採用】

次にデジタル人財の海外直接採用。海外の大学に進んで勉強してきた、海外国籍の優秀な人財を直接採用しようという試みです。

日本のグローバル企業では、現地で採用した人財を、出向で日本に来させてトレーニングさせるケースが多いです。

しかし、海外の人財を本社が直接採用するということは、例えば、本社勤務の社員の3年下の後輩に外国人が入ってくる。ということもこれからの日立では起こりうることになります。

【3.職種別採用コースの新設】

3番目の職種別採用コースの新設。職種別採用は最近のジョブ型とは直接関係がなく、取り組んでいる会社は昔からあります。

入社したらどこの配属になるか分からないのが普通ですが、採用をしたらここにしか配属しません。といった具合に、あらかじめ学生と約束して採用をする形態を職種別採用といいます。 職種別採用のメリットは、マーケティングや経理など特定の仕事をしたい、という人を必ずその部署に配属をする約束をするので、学生にとっては非常に好都合です。また、採用する人事にとっても、その職種についての専門能力があるかどうかが採用・選考の基準になります。

経験者(マルチキャリア人財)採用の取り組み

出典:ニュースリリース:2020年3月30日(株式会社 日立製作所)

2020年8月から導入されるKDDIのジョブ型人事制度は、勤務時間ではなく成果や

次に中途・経験者の採用についての取り組みについてです。

「新卒:経験者の比率を2:1→1:1へ」とあり、新卒の採用枠を減らし、経験者の採用比率を高くする、ということで。2020年度は新卒550名、経験者400名を予定していて、経験者採用の枠を増やしています。

この目的は明確で、専門能力の高い人、すぐに活躍可能な即戦力を採用したい。という意図が読み取れます。

前述したように、2019年の中期計画・サステナビリティレポートには全くなかった「ジョブ型」という言葉が2020年3月のニュースリリースで、最初に「採用」に関連して出してきた狙いはなんなのでしょうか。

それは日立製作所が直面している課題が、「グローバルに活躍できる若手の優秀な人財獲得競争」だからではないでしょうか。

海外のグローバルIT企業と競争をしていくためには、新卒の優秀な学生を採用しなければいけません。

古い日本の年功式の賃金形態では優秀な新人を雇うことはできません。生き残りをかけて、海外と同じようにジョブ型の採用基準にして、優秀な人財には破格の賃金を支払うということをやらないと、人財獲得競争に負けてしまいます。

今は大丈夫でもこのままいくと必ず立ち行かなくなる。若くても優秀な人財を高い報酬で雇わないとまずい。というのが日立製作所の本心と狙いなのではないでしょうか。

日立製作所がジョブ型を急推進する背景

HPの資料から日立製作所がジョブ型を推進するための採用に取り組んでいることを見てきましたが、これには何年かけて移行していくのでしょうか。

22歳で入社して、定年が62歳と仮定すると40年のスパンがあります。少なくとも40年間はジョブ型を続けていかなければなりません。

少しでも早く切り替えるために、何かジョブ型を推進するきっかけがないだろうかと探していたに違いありません。

そのきっかけには、今回の新型コロナ感染拡大の影響からの在宅勤務の普及が挙げられます。

在宅勤務では、顔を見ながら「何時間働いたね、頑張ってるね、だから評価します。」といった評価の仕方は一切出来なくなります。

在宅勤務の中では、職務を職務定義して、その仕事の成果物や結果、貢献や行動を評価していくように切り替えていかなければなりません。なので、在宅勤務とジョブ型人事制度は相性がいいのです。

元々、日立は競争上ジョブ型をやらないと人財獲得競争に負けて生き残れないという危機感がありました。そこへ今回のコロナウイルス騒動がきたので一気に推進しようと、導入を始めたのではないでしょうか。

ジョブ型人財マネジメントへの転換加速

ジョブ型人事制度の導入にはジョブディスクリプションシート(職務定義書)をたくさん書かなければいけません。

ジョブディスクリプションシートとは社員が担当する業務の内容や、業務の範囲がまとめられた書類で、採用した社員の全部の仕事に準備をしなくてはいけません。これを作成しておかないと、優秀な新規・中途採用の人財を採用できません。

ところが、この書類の作成には恐ろしく時間がかかります。人事部が作成しますが、事業部が関与することもあり、書くのが大変な書類で、人事部などは残業の嵐なのかもしれません。

出典:ニュースリリース:2020年5月26日 (株式会社 日立製作所)

上記の、2020年5月26日のニュースリリースにジョブディスクリプションの導入が触れられています。

「2020年6月にトライアル職場での作成、21年3月に全職種でのJD(ジョブディスクリプション)標準版作成」と記載があり、2020年末の現在まだ出来ていない。ここに日立の焦りが読み取れます。

ジョブディスクリプションシートはまだないが、ジョブ型人事制度を採用しなくてはいけない。なので、今回のコロナ騒動をきっかけにして一斉に推進しようと、チーフ人事オフィサーから大号令が出て、人事部総出で書類を作成しているのではないでしょうか。

ジョブ型人事制度の導入を全部2021年3月を目処にやると、日立製作所は大企業ではあるものの、急速に舵を切ったということが外から見ていても分かります。

今回のコロナ騒動を逆手に取って、リスクをオポチュニティに変えていこうという日立製作所の狙いが資料からも見て取れるのです。