ジョブ型雇用制度が昨今注目されていますが、安易に導入すると会社にとって重要な要素が失われてしまいます。
今回はジョブ型雇用制度の概要を説明しつつ、導入後に失ってしまう要素について解説していきます。ジョブ型雇用制度の導入に迷っている経営者はぜひ参考にしてみてください。
ジョブ型雇用制度の概要
そもそもジョブ型雇用制度についてよくわかっていない方もいることでしょう。まずは、ジョブ型雇用制度が注目されている背景や、導入される本当の理由などを解説していきます。
ジョブ型雇用がもてはやされる背景
企業が終身雇用制を維持するのは困難になりつつあり、社員が会社に依存すると組織が持たないと叫ばれる時代になりました。国の方針からも、社員が1人で自立できるようにしてほしいとのメッセージが伝わってきます。
社員にとって終身雇用制は、人間関係や組織のしがらみを受ける制度です。窮屈だと感じる方もいるかもしれませんが、言われたことに従って仕事を進めるのは気楽だともいえます。
その点、独り立ちをすると全責任が自分に生じるので、現実的に簡単ではありません。
一方、企業は新たな働き方を導入しなければ、不確実な時代で生き残れないのも確かです。働き方を見直すきっかけとして、ジョブ型雇用制度が注目されているのでしょう。
ジョブ型雇用制度が必要になる本当の理由
そもそもなぜ日本は、チームワークを重視した働き方からジョブ型雇用制度を望むようになったのでしょうか。
結論として、国内の大企業はジョブ型雇用制度を導入しないと生き残れないからです。特にグローバル製造業がよい例でしょう。
というのも、現地でジョブ型雇用制度が運用されているからです。イギリス人やアメリカ人、ドイツ人などのたくさんの人材がいますが、共通の土台で評価しないと不公平になります。
また、経営者も株主から集めたお金を使ったビジネスを進めるので、リターンを見込める人をしかるべきポジションに配置するのは当然です。ロール型の人事制度のもとで社長や役員を安易に選ぶと、グローバルな競争についていけなくなります。
以上の点をふまえて、グローバル企業はジョブ型雇用を導入しないと、日本人を育てられないだけでなく現地の優秀な人材も採用できません。
現地がジョブ型雇用制度であるならば、日本の人材をグローバルで活躍させるには、本社も同じ制度にする必要があります。つまり、やむをえなくジョブ型雇用に移行しているというわけです。
一般企業にとってジョブ型雇用制度のメリットは薄い
さまざまな理由でジョブ型雇用制度を進める企業もあるでしょう。
しかし、グローバル人材の育成や優秀な人材の現地採用を目的にしているグローバル企業でないかぎり、ジョブ型雇用制度の導入はメリットよりもデメリットのほうが圧倒的に多いです。
たとえば、ジョブ型雇用制度を導入しても、仕事がなくなったから契約を終了するということは、現在の日本では簡単にできないでしょう。
また、ジョブ型雇用制度は新卒一括採用と相性が悪いことにも注意しなければなりません。
日本の新卒一括採用では、専門的なスキルがない人を大量に組織に取り込みます。その一方でジョブ型雇用制度では専門的なスキルを持つ人しか採用しません。
それぞれの仕組みが共存できるか不明確な段階で、ジョブ型がもてはやされてロール型が悪者扱いされるという風潮に至っています。
一般企業であれば、ジョブ型雇用制度のデメリットを曖昧にしないように気をつけてください。
ジョブ型雇用制度の弊害
ジョブ型雇用制度が注目される前の時代では、課長や係長などの役職を定めるロール型(役割型/To Be型)を導入していた企業もあったでしょう。
そのような企業がロール型からジョブ型に移行すると、最初のうちは目新しいかもしれませんが、推進するにつれて弊害が見えてきます。
たとえば、ジョブ型では定められた職務に応じて報酬が決まっていることから、ほかの社員の仕事を手伝わない社員が増えてしまいます。
そうなると、マネジメントによっては組織が崩壊してしまう事態もありえます。
このように取り返しがつかなくなるケースもあるので、ジョブ型雇用制度を導入するのであれば、会社が失う要素について知っておくことが重要です。
ジョブ型雇用制度で失う3つの要素
ジョブ型雇用制度への移行に一番成功しているのは日立製作所でしょう。日立製作所が新体制に踏み切ったという理由だけで、ジョブ型雇用制度を検討する企業も少なくありません。
しかし、ジョブ型雇用制度に移行すると、大事なことを失ってしまいます。失う要素を3つ解説していきます。
要素1.エンゲージメント
エンゲージメントとは、従業員の会社に対する愛着心や思い入れなどをあらわす言葉です。個人と組織が一体となって双方の成長に貢献しあう関係を示すときにも使われます。
従業員のエンゲージメントはチームの中でこそ培われるという研究結果も知られています。個人主義的なジョブ型雇用制度だと、組織への帰属意識が減ってしまうと考えられます。
日本はただでさえエンゲージメントが低い傾向です。ジョブ型雇用制度によって社員のやる気はかなりの確率で低下するでしょう。
要素2.チームワーク
チームで仕事をすることは日本の組織に根付くよい風習だといえます。家族的なかかわりや年功制による弊害も指摘されてきましたが、助け合いの文化が大切なことには変わりありません。
日本人は、強いリーダーがいるわけでもないのに、示し合わせたようにお互いを助け合います。
東日本大震災やコロナ禍などにおける日本人のふるまいについても同様です。世界の各国にとっては、日本の協力的な文化が不思議に思えてならないことでしょう。
しかし、ジョブ型雇用制度ではチームワークが分断されて、助け合いの文化が衰退してしまう可能性があります。自分の仕事以外をしても評価されないのであれば当然のことでしょう。
要素3.イノベーション
イノベーションとは、モノやサービス、組織などに関する新たな考え方や技術を取り入れて、社会に変革もたらすことを意味します。
イノベーションは1人だけではなかなか起きないものです。会社という器の中で社員が意見をぶつけ合うと、新たな発想が膨らんでイノベーションが起きます。
その点、ジョブ型雇用制度だと社内のコミュニケーションが激減するので、イノベーションが生じにくくなります。
意識的にイノベーションを促進させる方法もありますが、大変な労力がともないます。
ただでさえ、日本の企業ではイノベーションを起こしづらい現状なので、ジョブ型雇用制度に切り替える際には注意しなければなりません。
ジョブ型とメンバーシップ型の併用が重要
エンゲージメントやチームワーク、イノベーションなどは、いずれの要素においてもメンバーシップ型の働き方と関係しています。上司が部下の面倒を見たり、各社員が同僚の仕事を手伝ったりしていく中で育まれていきます。
つまり、ジョブ型雇用制度を導入したとしてもメンバーシップ型の考え方は必要です。
ジョブ型とメンバーシップ型は対義語ではありません。アメリカの成長している企業のほとんどは、ジョブ型雇用制度にメンバーシップ型の要素を取り入れています。
もし、会社をより良い方向に発展させたいのであれば、ジョブ型雇用制度を知ったうえでエンゲージメントやチームワーク、イノベーションが廃れない環境を整えることが重要です。
実はジョブ型雇用制度に転換することは難しくありません。職務定義書を作成して該当者を探すだけなので、いつでも導入できます。
ジョブ型雇用制度の導入を検討しているのであれば、今一度必要性についてあらためて考えてみるとよいでしょう。