大手企業を筆頭にジョブ型雇用制度の導入が始まり、社内体制を見直している人事の方も多いことでしょう。
しかし、ジョブ型雇用制度には見落としてはならない重大な課題があります。今回はアメリカにおけるジョブ型雇用制度の課題を解説しつつ、導入時に注意すべき点を明らかにしていきます。
そもそもジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用制度が注目されていますが、まだ新しい概念であることから実態がよくわからないという方もいるのではないでしょうか。
ジョブ型雇用とは、仕事の内容を明確に定めて、定義に合致した人材を採用・配属・育成する人事制度です。
現在、日本では「ジョブ型」という言葉が大注目されていますが、アメリカでは普通に行われている人事制度であり、大規模なグローバル企業であればすでに浸透している仕組みだといえます。日本でも、製造業の分野において国内と海外の拠点を複数持っている企業で活用されているケースも見られます。
ただ、ジョブ型雇用にすれば経営がうまくいくとは限りません。
アメリカのIT企業やマーケティング会社はたしかにジョブ型雇用をベースにしているケースが多い傾向ですが、実はチームワークを重視しています。
その点では、メンバーシップ型の雇用についても日本より進んでいるといえるでしょう。このようにアメリカでもジョブ型雇用に対して完全に依存しているわけではありません。
ジョブ型雇用に必要なツール
意外に知られていませんが、ジョブ型雇用を導入するのに大切な資料があります。それは、ジョブディスクリプションシートです。いわゆる職務記述書をさします。
ちなみにジョブ型雇用に限らず、ジョブディスクリプションシートは数百人規模の採用活動でも、適材適所を実現させるのに役立ちます。
ジョブスクリプションシートの存在を知らない人がいるのは、単に日本であまり浸透していなかったからです。書類で仕事内容を明確にしたほうが望ましいことには変わりありません。
また、一般的な書類に関するフォーマットはインターネットで検索すれば取得できますが、ジョブ型雇用の歴史が浅い日本では、ジョブディスクリプションシートのテンプレートは見つかりにくいです。
仮に見つかったとしても、本当に使えるか疑わしいジョブディスクリプションシートも多く出回っています。
ジョブディスクリプションシートの主な内容
ジョブディスクリプションシートの内容をある程度把握しておきたいという方もいることでしょう。参考としてジョブディスクリプションシートの記載内容の例を挙げてみます。
・ポジションのタイトル
・職務内容や業務の比重
・責任や権限の範囲
・期待される目標
・報告義務のある上司
・部下の人数
・予算枠
・時間外手当の支給に関する分類
・職務に必要な知識やスキル、学歴など
・職務に必要な身体的条件
・業務における社内外の関係者
・署名
このように、ジョブディスクリプションシートには記載すべき項目がたくさんあることがわかります。数多くの社員を抱える企業が導入する際には、人数に比例して作成に負担がかかると考えられます。
ジョブディスクリプションシートの課題
ジョブ型雇用では、仕事を定義するためにジョブディスクリプションシートを書きます。
ただ、ジョブ型雇用に馴染みのあるアメリカであっても、実はジョブディスクリプションシートに大きな課題を抱えています。
アメリカのHRTMS社がジョブディスクリプションシートの運用について調査した結果があるので、課題を分析していきましょう。
ジョブディスクリプションシートの運用に関する調査内容は下記の通りです。
①自社のジョブディスクリプションシート全般に満足しているか
②ジョブディスクリプションシートの編集やメンテナンスに苦労しているか
③実際の業務とジョブディスクリプションシートの内容が異なる懸念があるか
④時間や人員的なリソースによる限界のため、ジョブディスクリプションシートの管理を貴重な課題として取り組めない人はいるか
⑤ジョブディスクリプションシートを何で管理しているか
この調査項目のなかから興味深い調査結果を見ていきましょう。
課題1.作成だけでなく編集やメンテナンスの負担も大きい
②「ジョブディスクリプションシートの編集やメンテナンスに苦労している会社」は64%という回答結果になりました。つまり、全体における3分の2にあたる会社はジョブディスクリプションシートの編集やメンテナンスに負担を感じていることがわかります。
日本はジョブ型雇用制度の導入期なので、ジョブディスクリプションシートについて入念に書くことになります。
数百人規模の会社であれば、数多くの社員に対してジョブディスクリプションシートを作成することになり、その後の管理にかかる労力は計り知れないでしょう。
課題2.ジョブディスクリプションシートの内容が実際の業務と異なる
時間が経つにつれて、実際の業務とジョブディスクリプションシートの内容がずれてくることにも課題が見られます。
③「実際の業務とジョブディスクリプションシートの相違に懸念がある」という回答は46%という結果でした。つまり、ジョブディスクリプションシートを作成した半数の企業が内容の違いについて放置していることがわかります。
ではなぜ、ジョブディスクリプションシートが放置されてしまうのでしょうか?結論として時間や人的なリソースに限界があるからです。ちなみに、④「時間や人員的なリソースによる限界のため、ジョブディスクリプションシートの管理を重要な課題として取り組めない」ほかの仕事を優先しなければならなかったという回答結果は76%でした。
このように大事だとわかっているにもかかわらず、一度作ったら最後、ジョブディスクリプションシートが放置され続けてしまうようです。人事の現場でジョブディスクリプションシートを管理する時間がないのでしょう。
課題3.Wordで管理されている
⑤「ジョブディスクリプションシートを何で管理しているか」という問いに対し、ジョブディスクリプションシートを一元管理できないソフトWordで管理しているという回答結果は82%でした。
ジョブディスクリプションシートは採用や配属などさまざまな目的で利用されます。したがって、いつどこで必要になるかわかりません。それにもかかわらず、Wordでマネジメントするのは非効率的といえるでしょう。
ジョブディスクリプションシートに満足している企業の割合
最終的に、①「自社のジョブディスクリプションシートに満足している」と答えた企業の割合は、たったの3%でした。つまり、100社のうち97社はジョブディスクリプションシートを作成しただけで有効活用できていないということがわかります。
これはアメリカの人事制度における最大の課題です。ジョブ型雇用をすでに活用してきた国ですらこのような悲惨な状態です。つまり、ジョブ型雇用の歴史が浅い日本でジョブディスクリプションシートを導入するのは困難といえるでしょう。
日立製作所やKDDIなどの大手企業であれば、人的リソースを確保してうまく導入できるかもしれません。ただ、小規模な会社が数百人のジョブディスクリプションシートを書くのはとても重労働だといえます。
ジョブディスクリプションシートを導入するときは専門家に相談
アメリカでは、ジョブディスクリプションシートを管理する専門のチームやツールを開発している会社も登場しつつあり、サービスの利用によって改善され始めています。
少しでもジョブディスクリプションシートの導入に不安があるのであれば、余計な労力を減らせるようコンサルタントにアドバイスを求めることが大切です。
そもそも、ジョブ型雇用に移行する必要性から考えなければなりません。必要と判断したのであれば、最低限ジョブディスクリプションシートをメンテナンスしやすい体制に整えることを忘れないでください。