資生堂では、ジョブ型人事制度を全社導入する方針を掲げています。資生堂の魚谷社長は、2014年に役員を経由しないで、外部の出身者として史上初のCEOに就任した人物です。
それ以降、戦略の策定や組織文化の改革などを実行しています。おそらくジョブ型人事制度も、この長期戦略の一環として行われているのでしょう。
今回は、資生堂のジョブ型人事制度の内容を解説しつつ、必要とされるスキルについて迫っていきます。
資生堂がジョブ型人事制度を全社導入
※出典
2020年 第2四半期/上期実績(1-6月)および通期見通し
(株式会社 資生堂)
資生堂のホームページで公開されている「2020年 第2四半期/上期実績(1-6月)および通期見通し」という資料では、「ジョブ型人事制度の全社導入」という記載が見受けられます。
NHKの取材によると、資生堂はすでに管理職を対象にジョブ型人事制度を導入しており、2021年には一般社員(3,800人)まで広げる方針とのことです。
※参考
ジョブ型が会社を変える!?
(おはよう日本/NHK NEWS)
資生堂では職務記述書を活用
資生堂のジョブ型人事制度では職務記述書を導入しています
職務記述書には、目標や役職、計画などを記載し、達成度で給与やポストを決定するようです。目標は数値で定量的に表され、計画は期限まで定められています。
部長という役職の記載からは、管理職からジョブ型を導入するであろう定番の流れが読み取れます。
職務記述書の目的
一般的に職務記述書には、2つの目的があると考えられます。1つ目は仕事の範囲を限定することであり、2つ目は目標管理です。
資生堂のケースでは職務記述書に目標値を入れていく方針が見受けられます。管理職の範囲を定義するだけでなく、目標管理という目的でも活用しているのでしょう。管理職の場合、目標値は業績評価につながります。
ジョブ型人事制度における資生堂の採用活動
ジョブ型人事制度は、専門スキルを持った人に適切な仕事を割り当てる仕組みです。魚谷社長は、ジョブ型人事制度を究極の適材適所と捉えています。
たしかに、ジョブ型人事制度は効率的な仕組みだといえますが、専門スキルを持つ人材の確保が難しいというデメリットは見過ごせません。
たとえば、資生堂のブランディング、人事、商品開発などに関する仕事は、かなりピンポイントな領域です。必然的に高い能力が求められることでしょう。
しかし、高い能力を持った人材はどこにでもいるわけではありません。社内にいれば問題はありませんが、そうでない場合は採用活動をする必要があります。
では、資生堂はどのように専門スキルを持つ人材を採用しているのでしょうか。
職務記述書で人材を募集
※出典
資生堂―GLOBAL HEADQUARTERS―
(株式会社 資生堂)
資生堂のグローバル本社における採用情報では、職務記述書の一覧が提示されています。
職務記述書の例として、「サプライ領域・商品開発領域オペレーション担当者」という仕事を確認してみましょう。
「ブランド価値、ブランド中長期戦略に基づいた中期商品計画を企画、商品開発オペレーションサポートに加え、限定品商品開発を担う担当者」の募集です。
職務記述書の冒頭では、勤務地やジョブレベル、直属の上司、雇用形態などが記載されています。
具体的な仕事の詳細は下記の通りです。
・実績トラッキング、市場、顧客視点の分析
・サプライチェーン及び商品開発タイムラインマネジメント
・限定品の商品開発
・コミュニケーション
横文字や専門用語が多く、経験している人でなければ理解しづらい内容です。この点からも、ジョブ型人事制度の特徴が見受けられるといえるでしょう。
採用で必要とされるスキル
資生堂の職務記述書では、採用基準となるスキルや経験なども記載されています。
具体的なスキルや経験の例は主に下記の通りです。
・化粧品業界(もしくはほかの業界)におけるサプライチェーンの基礎業務経験(3年以上)
・商品やサプライなどに関する社内オペレーションの仕組みを構築した経験
・中級レベルのOAスキル(基本操作、四則演算、関数、グラフ作成)
・担当する業務に関連するプロセスを理解し、スピード感をもって同僚や上司と連携して業務が遂行できること
関数やグラフ作成スキルがあることから、仕事でExcelを使うことも想定できるでしょう。
そのほか、コミュニケーション力、トレンドへの興味、柔軟性、創造性、チームワークなども重視されています。これらの要素は専門スキルではないことは一目瞭然です。
いわゆる、日本のメンバーシップ型やロール型の人事制度で培われる能力といえるでしょう。
専門的な仕事であっても、社会人基礎スキルは最低限必要であることがわかります。
ジョブ型雇用で必要とされる意外なスキル
ジョブ型人事制度は、仕事領域を明確にしたうえで専門的な仕事を進めていく体制ですが、専門能力のほかにも必要な能力があります。
資生堂の職務記述書からは、一般的な社会人基礎スキルが要求されていることがわかりました。
ちなみに、環境を問わずに発揮できるスキルは、ポータブルスキルと呼ばれています。ポータブルプレイヤーのように、どこでも役に立つスキルです。たとえば、コミュニケーション力や上司・同僚との協調性などが挙げられます。
いずれのスキルも組織に属するうえでは必要不可欠なスキルです。
ジョブ型人事制度でも組織との関係は少なからず存在し、専門領域だけを忠実に遂行すればよいわけではありません。社会人としての基礎能力を持ったうえで専門能力を発揮することが望ましいといえます。
したがって、今後ジョブ型人事制度のもとで募集される高度な仕事に就くためには、専門スキルとポータブルスキルの両方を身につけることが大切です。
専門分野を学ぶ前にポータブルスキルを身につけよう
資生堂のジョブ型人事制度を解説しました。資生堂は管理職をはじめ、一般社員の採用にも制度を適用する段階に入っています。
ほかの企業の例をふまえても、一般的にジョブ型雇用は管理職から展開するケースがほとんどです。
ジョブ型人事制度はそもそも、必要に迫られて導入されます。たとえば、グローバル企業がよい例でしょう。アメリカやヨーロッパ、アフリカなどさまざまな地域から優秀な人材を集めるためにはジョブグレーディングの仕組みが必要だからです。
グローバル企業も基本的に管理職からジョブ型人事制度を導入し、そのあと労働組合と交渉しながら一般社員にまで展開していきます。
現在、資生堂をはじめ国内の大手企業が相次いで導入に乗り出したことにより、ジョブ型人事制度は一般企業からも注目されるようになりました。
それを受けて、キャリア設計や専門スキルを磨く方法について模索している社員の方々もいることでしょう。
ただ、日本ではジョブ型人事制度は導入段階であり、専門スキルを身につけようと焦る必要はありません。
その点、ジョブ型人事制度においては、専門スキルだけでなくポータブルスキルも重要です。
ポータブルスキルは、日本のメンバーシップ型あるいはロール型の組織で身につきやすく、目の前の仕事に専念することで自然と育まれます。
将来のキャリアを切り開くためにも、ポータブルスキルだけは身につけておくべきでしょう。