2021年2月、シニア社員にも成果主義を導入するというニュースが流れてきました。
“働き方の多様化で定年がキャリアのゴールではなくなるなか、シニア人材にも競争を促し生産性の底上げを狙う企業が出はじめた。カシオ計算機は60歳以上のシニア社員を対象に成果主義の給与体系を導入した。システム開発のTISなどでも同様の取り組みが進む。シニア人材は労働力人口の3割を占め、各社とも活用を急ぐ。”
※引用
シニア人材も成果主義 競争促し生産性向上
(日本経済新聞)
なぜ、これからの将来を担っていく若手社員ではなく、シニア社員に成果主義を導入するのでしょうか。今回は、シニア社員に成果主義を導入する背景や、今後の人事課題について解説していきます。
シニア社員に成果主義が導入される背景
バブル期に入社した社員は、現在の年齢でいうと50歳を超えたくらいの社員であり、シニア社員と呼ばれ始めます。
バブル期の会社は、かなりの人数を採用していました。具体的には1,000人規模です。そのため、現代はシニア社員が極端に増加し、いびつな人口ピラミッドになっている会社が多いと考えられます。
シニア社員の数が多いと、しばらくしてから大量に定年退職が起こり、技術やノウハウの伝承に支障をきたす可能性があります。
なるべく早くベテランのスキルや経験を若手・中堅社員に学んでもらわなければなりません。技能系の職種であれば、技術を伝承するだけでなく、機械化で労働力を補うやり方もあるでしょう。
また、技術やノウハウの伝承以外にも課題があります。
2020年9月に実施されたパーソル総合研究所の調査によると、シニア人材に関する課題としては、モチベーションやパフォーマンスの低下、マネジメントの困難さなどが上位に挙げられていました。
そのほか、健康上の配慮や能力不足、職域開発などの課題も見受けられます。
シニア人材に対して何かしらの対策を実施している企業の割合は62.9%という結果でした。まだ対策を講じられていない企業がいるとわかります。
※参考
企業のシニア人材マネジメントの実態調査
(パーソル総合研究所)
シニア社員の増加にともなう人事の重要課題は?
シニア社員のモチベーション低下や、マネジメントの困難さなどの課題に対処することも大事です。しかし、最も注目してほしい課題がほかにあります。
それは、人件費の調整です。
現代では、ジョブ型といった給与制度が注目されており、仕事や能力に適した給与配分が検討されるようになりました。しかし、多くの会社では年功式の賃金形態が残っているのが実情です。
50歳以上の社員が増えてくると、人件費がかなり高まってきます。会社によっては3割~4割ほど高まる可能性も否定できません。
そこで人事制度を見直す必要がありますが、企業の人事部にとって頭が痛い問題が社員の既得権です。
人事制度や給与制度を変えると、社員によっては賃金が低下します。制度の不利益変更は、なるべく避けたいところです。組合があると、組合の総意にもとづき会社と合意したうえでなければ、制度を変えられません。
労働組合も難しいかじ取りを強いられます。若手社員を確保し、将来に向けて人材育成をしなければなりません。しかし、増加するシニア社員の声を無視できないのも事実です。
人件費の調整を巡る懸念事項
シニア社員と若手の給与配分について、会社と労働組合も悩みどころでしょう。人件費の調整を巡る懸念事項について、シニア社員と若手社員の立場から解説します。
シニア社員の急激な給与低下
一般的に定年再雇用になったとき、給与は大幅に下がります。下手をすれば最低賃金レベルに引き下がり、年収が3分の1くらいになることもありえます。
長く勤めていれば、会社に対する愛着も増すでしょう。そのため、会社の将来を気遣っているシニア社員の方もいます。にもかかわらず、再雇用した瞬間に同じ仕事で給与が下がるのは納得できないでしょう。
若手社員のモチベーション低下
若手社員からすると、ITスキルの乏しいシニア社員にストレスを抱えている方もいるかもしれません。
たとえば、テレワークの普及にともない、導入している会社も多い、チャットツールのSlackやChatwork、Web会議用のZoomなどが使えないシニア社員もいるでしょう。
それどころか、メールの設定まで若手社員頼みにしているシニア社員もいるかもしれません。
そのようなシニア社員に高い給与が支払われると、若手としてはモチベーションが下がる可能性があります。
シニア世代に成果主義を導入するタイミング
課題を解決するには、成果主義に移行する必要があります。具体的には、60歳を超えた社員にも課題を設定させ、組織に対する貢献度を測定し、適切な報酬を支払わなければなりません。
また、成果主義を反映させるタイミングも決める必要があります。たとえば、定年再雇用のタイミングにしたり、50歳以上で役職のない人から移行したりします。
いずれにせよ、組合の総意や会社との合意などで決まるので、一概に何がよいかは職場次第です。
シニア社員制度の改定事例
シニア社員の課題に対処したいのであれば、企業の人事制度改革が参考になります。
カシオ計算機では、定年退職する社員に就業機会を提供するシニア社員制度があります。シニア社員がさらに活躍できるよう、2019年7月にシニア社員制度を改定しました。
具体的には、シニア社員を役割や職責に応じて評価し、格付けによって処遇を決めるように変更しています。シニア社員の処遇水準を高めて、高齢者のやりがいを生み出すことが狙いです。
また、再雇用後に役割と処遇が変化することに備え、準備も行っています。
49歳の社員にはキャリア研修で自分の環境変化を想像しつつ今後のキャリアプランを描いてもらい、58歳を迎える社員には定年後の社内外制度を共有する機会を設けています。
※参考
高齢者の活躍促進/高齢者への生活・就業支援
(カシオ計算機株式会社)
人件費に関する新たな課題にも注目
2018年12月、人事・組織に関する情報開示のガイドラインとしてISO30414という新しい基準が登場しました。
2020年8月、アメリカの上場企業には人的資源の情報開示が義務化されています。つまり、企業の人に対する投資や、従業員一人あたりの利益額、人材育成の費用などについて、投資家や銀行、金融機関に確認されるようになりました。
シニア社員に多くの給与を支払うと人件費が膨らみ、利益に対する人件費の比率が悪化します。このような課題が第三者から厳しくチェックされるというわけです。
人的資本に関する報告が要求されるようになった今、日本でも対応が迫られると予想されます。
今までのように給与を積み上げ型で決めていく時代は終わるかもしれません。これからの時代は、会社の利益に対して適切な人件費の総額を最初に決め、後で分配を考える方式が主流になるでしょう。
この方式に移行しないと、会社が長期的に存続するのは難しくなります。今後は、企業の人事担当者にとって、投資やキャッシュに関する感覚を磨くことが重要になりそうです。
こちらの動画でも詳しく解説しています。よろしければご覧ください。
シニア社員にも成果主義導入!?