富士通のジョブ型雇用制度とは?評価・報酬体系、本当のねらいについて

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近年、ジョブ型雇用制度が注目されています。一定の職務に対して専門スキルを持った人を採用する制度ですが、各社によって認識が異なっている点に注意しなければなりません。今回はジョブ型雇用制度の実例として富士通を取り上げていきます。

富士通に関するジョブ型雇用制度の内容

ジョブ型雇用制度は大企業を中心に導入が進められており、その取り組みについて少しずつ私たちの耳に入るようになりました。

企業のホームページでは各社がジョブ型雇用の詳細についてメッセージを発信しています。たとえば富士通だと、企業情報のサステナビリティにおいて、評価処遇と職場環境整備という項目を設けており、その中でジョブ型雇用の人事制度に触れています。

出典:評価・処遇と職場環境整備(富士通株式会社)

評価とは人事評価のことであり、処遇とは評価をもとに従業員の報酬を決めることです。職場環境整備はワークライフバランスの体制やコロナ対策といったテレワークの導入などが良い例でしょう。

ここからは各項目の内容を追っていきながら、富士通の方針において、ジョブ型雇用の体制が読み取れる根拠を探ってみましょう。

目標は中期的スパン

サイトでは、ありたい姿や2022年度の目標が書いてあります。一般的に会社では、3年くらいの中期的なスパンで考えるのが通常であり、富士通も同様に計画しているのでしょう。

中には5年、10年といった長期スパンで考える企業もありますが、先のことを考えると具体性がなくなってしまいがちです。

評価・処遇の考え方

評価・処遇の考え方では、パーパス(存在意義)と題して能力育成について触れられています。内容の主軸は下記の通りです。

出典:評価・処遇と職場環境整備(富士通株式会社)

  • 公正と平等性を重んじ、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する
  • 自由に最大限に可能性を発揮できる環境で、社会から必要とされる技術や能力を高める

ダイバーシティとは人材の多様性であり、インクルージョンは平等性に関する言葉です。つまり富士通は、性別や地域などの違いをはじめ、さまざまなバックグランドを持った人が活躍できる状態を目指しているとわかります。

可能性を発揮できる環境に関しては、会社と社員の立場から方針を区別しているのが特徴です。

会社は社員が能力を最大限に発揮できる環境を目指し、社員に会社を自己成長の場とすることを促しています。年功制ではなく成果に応じて会社が報酬を支払うことも柔らかく示しています。 これらの項目では、ジョブ型雇用については全く触れられていません。

項目3.具体的な取り組み

具体的な取り組みは、一般社員と幹部社員を区別して考え方が示されています。

一般社員に関しては結論からいうとジョブ型雇用ではありません。富士通における評価体系のねらいを見ると少しわかるかもしれません。

一般社員の評価体系

出典:評価・処遇と職場環境整備(富士通株式会社)

人事では4種類の基盤があります。採用、配属、育成、評価です。最近では報酬

富士通では、評価体系のねらいにおいて「コンピテンシー評価」というキーワードを示しています。

コンピテンシー評価は、推奨される行動をしているかどうかを評価して模範行動の発揮度をはかり、昇給とグレードを決める仕組みです。推奨される行動のパターンについては各社がリスト化しています。

ちなみに「グレード」とは職位のことです。たとえば、担当から主任になったり、主任から係長になったりしてグレードが変わると一般的に昇給します。

同じグレードでも努力次第で昇給することもあります。少しあがって大きくあがるというサイクルを繰り返しながら、賃金が上昇していく傾向です。

このように一般社員の評価制度は、行動系の評価で月時給を決め、成果で賞与を決めるのが通常です。

富士通が述べているコンピテンシー評価と成果評価は、いわゆる実力成果主義の人事制度に行動評価という軸をいれた一般社員向けの体制であるといえるでしょう。この点に関してもジョブ型との関連性は見られません。

富士通の雇用制度がジョブ型といわれる理由

一般社員の評価体系においてジョブ型雇用の特徴が見られないのであれば、富士通のジョブ型雇用は誰を対象としているのでしょうか。

富士通のジョブ型雇用は幹部社員が対象

富士通は幹部社員に関する項目で、明確に幹部社員を対象に2020年4月よりジョブ型人事制度を導入したことを明かしています。

出典:評価・処遇と職場環境整備(富士通株式会社)

富士通では、ジョブ型人事制度に関する評価体制を示した図を用意しています。1番左にあるFJLvは、おそらく富士通レベルの略でしょう。

レベルはグレードで示されており、SVPはシニア・バイス・プレジデント、VPはバイス・プレジデントをさしています。

通常、本部長や執行役員クラスがVPになって、それ以降は常務や専務クラスがSVPとして扱われます。その下にあるLVについては、レベルが高いほど職位が高いことを示しています。

評価体制では、売上などの定量的な規模の観点に加えて、レポートラインや難易度、専門性といった観点、職責の大きさや重要性の観点などから格付けされ、そのレベルに基づいて報酬が支払われる仕組みです。

一般的なジョブ型雇用と勘違いされる理由

一般的なジョブ型雇用は専門家を適切な職務に割り当てる仕組みであり、富士通のジョブ型人事制度を表す図を見ても、ジョブ型雇用に見えない方もいるでしょう。

新しい制度ではグローバルに統一された基準によりジョブ(職責)の大きさや重要性を格付けして報酬に反映しています。

グローバル企業である富士通規模になると、社員は日本やヨーロッパなどさまざまな場所でそれぞれが働いています。その中の優秀な人材にはグループ企業や本社の重要ポジションで力を発揮してほしいと思うのが一般的です。

しかし、うまくいかないケースがあります。たとえば、日本における本社の部長とアメリカにおける子会社の役員を比較した場合です。仮にアメリカにおける子会社の規模が小さいケースでは、どちらのジョブレベルが高いのでしょうか。

その点、グローバル企業ではジョブグレーディングという考え方があり、それぞれの立場を数値でリスト化します。

前述した通り、富士通の評価体制ではレベルに応じて報酬を決めていることから、幹部社員に対してもジョブグレーディングが行われているといってよいでしょう。

つまり、富士通はジョブグレーディングの評価体制をジョブ型雇用制度と表現しているのではないでしょうか。

富士通におけるジョブ型雇用のねらい

富士通は人材育成・キャリアデザインについても解説しています。この項目でもジョブグレードに関する内容が記載されており、富士通のねらいがわかってきます。 富士通によると、富士通の国内グループにおける多様な社員一人ひとりが、自身のキャリアについて時と場所に関係なく学べるようにして、成長を支援する旨が述べられています。つまり、人材育成を引き続き重視していることがわかるでしょう。

出典:人材育成・キャリアデザイン(富士通株式会社)

人材育成体系というグラフを見ると、縦軸に必修スキルと選択スキルが設定されており、横軸に「入社キャリア」「キャリアと向き合う」「キャリアをつくる」「新たなキャリアをつくる」「100年時代を見据え」「定年」というステップが示されています。大きな視点では、トレーニー、マネージャー、シニア・バイス・プレジデントまでのステップも見られます。

必修になっているのがベーススキルやDX・変革スキル、共通スキルです。まず共通スキルとしては、リベラルアーツ教育をベースとして、課題解決スキルや対人スキル、自己関連スキルが必要とされているようです。

経験を積んでいくにつれ、組織ピープルマネジメント関連スキルなどが求められていますが、これは管理職に必要なスキルです。さらに上の職位だと戦略的策定関連スキルまで求められています。

一番上についてはジョブグレード別という項目があり、高度人材という部分にJPというキーワードがあります。マネージャー以降に対応していることから、おそらくジョブレベルをさしているのでしょう。

このようにスキルの観点からも、富士通のジョブ型雇用は管理職を前提として考えられています。

キャリアの役割は管理職になってからさまざまな方向があるでしょう。社内でグレードアップを図ったり、ほかのグループ企業で自分の専門能力を発揮したりすることもできます。

つまり、あくまで柔軟な体制で社員が活躍できる仕組みを整えているとわかり、富士通では比較的穏やかにジョブ型雇用を進めていきたいというねらいがあるのではないでしょうか。

ジョブ型雇用を風潮に惑わされずに正しく理解

以上、富士通におけるジョブ型雇用制度の内容を解説しました。

世界中で人材を抱えるグローバル企業はジョブグレーディングの体制でないとうまくいきません。日本人の優秀な人材が海外で活躍できないし、海外の優秀な人材をグローバルな本社で使うこともできないでしょう。

その点、ジョブグレーディングの適用範囲を日本の管理職まで広げたのが富士通のジョブ型雇用制度です。

富士通をはじめ日立やKDDIなどのジョブ型への取り組みが宣伝されることで、世間では、会社が生き残るためには専門能力を持った人を優先して採用しなければいけないという勘違いがあります。

世間の風潮に惑わされずに、専門家の意見をもとに各社ごとのジョブ型雇用制度を正しく理解することが大切です。