日本では、大手企業を筆頭にジョブ型人事制度が導入され始めています。その一方で興味深いことに、アメリカはジョブ型人事制度の限界を感じる段階に入りました。今回は、ジョブ型人事制度に関する誤解や、新たに注目されている働き方、時代遅れである根拠などを解説していきます。
ジョブ型人事制度に関する誤解とは?
日本で注目されるジョブ型人事制度には、さまざまな誤解が見受けられます。ジョブ型人事制度の背景を振り返りつつ、誤解に目を向けてみましょう。
ジョブ型人事制度の背景
ジョブ型の概念を提案したのは、労働政策研究・研修機構労働政策研究所長である濱口桂一郎氏です。
濱口氏は労働問題や雇用政策の第一人者として知られています。非正規労働者の急増にともない、ブラック企業による過重労働や不当な転勤、搾取などを改善するために、メンバーシップ型とは異なる欧米流の概念を取り入れたのでしょう。
誤解1.ジョブ型は限定正社員と混同されがち
過去に限定正社員という言葉がはやりました。この雇用形態は地域を限定した正社員です。たとえば、地方の工場で採用し、将来に工場が閉鎖されたら契約が終了します。
当時は地域限定正社員と呼ばれていましたが、正社員の種類が広がっていくうちに、いつのまにか職務限定正社員として知られるようになり、最終的にジョブ型正社員につながりました。
ジョブ型正社員は仕事がなくなると解雇されるというイメージも強まり、労働組合から反対される風潮がはびこるようになりました。
誤解2.ジョブ型にはチームワークが不要と思われている
組織にとって重要な仕事がマネジメントです。たとえば、チームやモチベーション、納期などの管理が挙げられます。
アメリカはジョブ型ですが、現在成長している企業は組織やチームワーク、心理的安全性など、日本のメンバーシップ型の長所を導入しています。
アメリカの経営者から見ると、日本のメンバーシップ型はとても魅力的に感じるようです。つまりジョブ型でも、日本のようにチームワークを重視してきた働き方が大切にされているとわかります。
その一方で日本では、適材適所の考え方を推進するあまり、ジョブ型は担当以外の仕事を遂行しない働き方だと誤認しています。
専門家の視点によると、日本で叫ばれるジョブ型とアメリカのジョブ型は、全く別物といってもよいでしょう。
ジョブ型人事制度はメリットもあるけれど、デメリットもあります。割り当てられた仕事だけをする仕組みは、下手をすると職場のチームワークを乱してしまうリスクがあり、安易に導入すべきではありません。
また、ジョブ型人事制度を導入するときには、ジョブディスクリプションシートに必ず目標を数値で記載する必要があります。
多くの日本企業は「~の定着」「~の実行」「~の遂行」といった便利な日本語を使って目標を設定しがちです。期限や対象、方法などを具体的に記載しなければジョブ型雇用を導入できません。
メンバーシップ型やジョブ型の両方を経験した人事コンサルタントでなければ、ジョブ型人事制度を正しく理解するのは難しいでしょう。
ジョブ型ではない新時代の働き方
日本がジョブ型の導入段階に入っている一方で、ジョブ型はすでに時代遅れではないかと、欧米では議論されています。
具体的には、メンバーシップ型とジョブ型の次にあたる雇用形態が模索されているとのことです。
社員を雇わずプロに外注する
近年はインターネット技術が発達しており、新たな働き方をする労働者が台頭しています。たとえば、職務登録型の仕事サービスです。
自分ができる仕事内容をサイト内で公開し、プロジェクトやタスクを請け負って収入を得る働き方です。就職する職場をあっせんする仕組みとは大きく異なります。
各業界に特化した登録サービスを取捨選択すれば、素早くスペシャリストに仕事を依頼できます。
プロジェクトやタスクベースで、それぞれの企業の要望にもとづいて、クオリティの高い仕事を遂行してもらえるでしょう。
経営で外注を利用する例
たとえば、ビジネスにおいて動画編集を依頼したり、メルマガの作成を手伝ってもらったりするのがよい例でしょう。人事関連であれば、タレントマネジメントツールの作成まで外注できます。
値段は高いかもしれませんが、社員の教育が必要ありません。成果を出さない社員に人件費を出さなくて済み、コストパフォーマンスは良くなるでしょう。
IT技術が発達した現在なら、昔は外注に出せなかった業務もアウトソーシングできる可能性があります。
しかし日本では、会社にいれば安泰だと考える方がまだいるようです。人事の専門家からすれば、日本の将来に不安を感じることでしょう。
ジョブ型人事制度は時代遅れ?
※参考
ハーバード・ビジネス・レビューのご紹介
(株式会社ダイヤモンド社)
ジョブ型が時代遅れだといっても、導入段階である日本では理解されづらいかもしれません。そこで参考になるのがHarvard Business Review(ハーバードビジネスレビュー)です。
Harvard Business Reviewとは、1922年にハーバードビジネススクールの教育理念をベースに創刊されたマネジメント誌です。
現在は英語だけでなく、日本や中国、ドイツ、イタリア語などの多言語で翻訳されるに至っており、世界中のビジネスリーダーや専門家に愛読されています。
ジョブ型が時代遅れであることを感じてもらうために、近年出版された日本語版におけるHarvard Business Reviewのタイトルを確認してみましょう。
具体的なタイトルは下記の通りです。
・セルフコンパッション
・なぜイノベーションを生み出し続ける企業は組織文化を大切にするのか
・ムーンショット
・時間と幸福のマネジメント
・戦略採用
・従業員エンゲージメント
・信頼される経営
・デュアルキャリア・カップルの幸福論
・戦略を実行につなげる組織
・女性の力
・顧客の持つ価値を問い直す
・A/Bテストで成長を加速させる 実験する組織
・答えのない時代をともに切り拓く リーダーという仕事
・戦略的に未来をマネジメントする方法
タイトルを見ればわかる通り、ジョブ型人事制度については一切触れられていません。
ジョブ型ではなく、従業員の幸せや組織への帰属意識、エンゲージメントなどに着目しています。アメリカの企業はジョブ型にベクトルが向いていません。
むしろアメリカは、ジョブ型人事制度にとらわれず、新たな雇用形態を追求しています。
ところが日本では、ジョブ型やジョブディスクリプションシートなどの言葉がはやっています。人事の観点からは、世界の流行に乗り遅れているといっても過言ではありません。
ジョブ型人事制度に惑わされずに理想の働き方を追求
以上、ジョブ型人事制度の誤解や現在注目されている新しい働き方を解説しました。
結論として、ジョブ型もメンバーシップ型も、どちらも時代遅れかもしれません。IT技術の進歩が加速し、社員を雇って仕事をさせるよりも、プロジェクトやタスクベースでプロに外注するのが当たり前になる時代に近づいてきています。
ジョブ型人事制度は万能ではありません。日本の流行に目を奪われるのではなく、世界が注目する人事制度の動向についても把握し、理想の働き方を追求しましょう。